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創傷の治療法

2006/03/08
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創傷治癒と今までの治療法

今までの創傷治療

 傷の治療といえば、創面を消毒し、ガーゼや家庭では絆創膏を貼るというお決まりの流れがあった。そして傷に痂皮(かさぶた)ができたら傷が治るというふうに考えられてきた、というより両親などから代々そういうものだというように受け継がれていたであろう。今まではこの方法が本当に正しい創傷の治療方法なのかということに疑いを持つこともなく、医療従事者でさえ同じような治療法を行ってきた。しかし、現在この治療法は逆に創傷治癒を遅れさせているとし、見直されている。


創傷が治るメカニズム

 そもそも創傷を負った皮膚は、どのように治癒していくのだろう。皮膚は3層構造になっており、皮膚創傷の回復過程は傷の深さが2層目の真皮(浅い創傷)までか、より深い皮下組織(深い創傷)までかによって違ってくる。

 @浅い皮膚創傷では、創周囲の表皮や、真皮に存在する毛孔・汗腺(表皮から出来ている)などから表皮細胞が創傷部に遊走・増殖し集まってきて創傷部位を再生させる。

 A深い皮膚創傷では、一度創傷部を肉芽細胞が覆い、その後に同じように周囲から表皮細胞の創傷部への遊走が起こり、同時に肉芽細胞が収縮し創傷部位は再生する。

 @、Aどちらの場合でも、表皮細胞が遊走・増殖し創傷を回復させるという点は共通しており、表皮細胞の遊走・増殖が創傷の回復には不可欠なのである。もちろん創傷の回復には表皮細胞だけでなく、その他にも線維芽細胞や血小板など様々な細胞が治癒のために遊走・増殖し機能している。したがって、創傷を早く治すためにはこれらの細胞の遊走・増殖を助ける環境が必要であり、それに最適な環境とは湿潤環境である。皮膚の細胞ももちろん生きており水分がない状態では生きてはいけない。皮膚が乾燥していては、表皮細胞は遊走できず、全滅してしまうのである。実はこの時に出来る壊死組織が痂皮(かさぶた)の正体である。痂皮とは傷が治る過程で必ず出来るものではなく、皮膚が壊死したためにできるものだったのである。これらのことにより創傷の自己治癒が上手く機能するためには湿潤環境が必要不可欠なのである。

 また創傷治癒においては、さまざまな細胞が関与しているのだが、もしこれらの細胞が自分勝手に働くのではどうしても治癒の効率が悪くなってしまう。そのため細胞はお互いが一番よいタイミングで機能するようにお互いに細胞成長因子(特定の細胞の活動を促進させる)を分泌して、細胞同士が効率よく働いているのである。この細胞成長因子とは、いわゆる創傷にできるジクジクである。化膿しているのではないかと勘違いされがちなのだがこれが創傷治癒の過程ではとても大切なのである。この細胞成長因子が分泌されることにより、創面は先ほど話したような湿潤環境が保たれ、各細胞が最適なタイミングで働くことが出来るのである。

創傷と乾燥

ガーゼ・絆創膏の有効性

 創傷治癒のための最適な環境は湿潤環境であり、乾燥状態では組織が壊死し損傷が悪化してしまうことを話しました。では普段行なっているガーゼを創傷部を覆うということはどうなのだろうか?ガーゼの目的というのは創傷部の水分などを吸収し乾燥させるためのものである。ということは、創傷治癒を妨害するようなものである。

 昔は「創傷部は乾燥させることにより細菌感染を防ぎ、早く治癒する」という考えがあり、その為ガーゼで創傷部に覆うという方法が一般的に普及していった。しかし、その後の研究で乾燥させると早く治癒するという考えは間違えであり、逆に皮膚の組織まで壊死させてしまい結果として創傷の治癒を遅延させてしまうことが明らかになった。これは先ほど話したとおりである。

 またガーゼにはもう一つ問題点がある。ガーゼで傷を覆うと、乾いて創傷部に固着してしまい、剥がす際にどうしても痛みが出てしまう。またこの時に治りかけている皮膚を剥がしてしまうことになるため創面の治癒を遅らせてしまう原因となってしまう。

 これらのことから創傷部にガーゼを使うメリットはなく、創傷部には使用すべきではないといえる。


創傷と閉鎖療法

 創傷を早く治癒させようと思うのならば、創傷を湿潤環境に保ち、この細胞成長因子を逃がさないようにすればよい。この考えにより登場した治療法が閉鎖療法である。創傷の上を何かで密封することにより、細胞成長因子が創傷に常に保持されることになり、創傷治癒に関わる細胞が最適な環境下で機能を最大限に発揮できることとなるという考えによるものである。

 もし創傷をそのまま何もせず開放状態にしてしまうと、成長因子をいくら分泌したところで濃度があがらずなかなか細胞増殖が進まない。そのため閉鎖療法は創傷を治癒するために最適な環境を作り、身体が持つ治癒能力を最大限に引き出す治療であるといえる。


創傷と感染

創感染(化膿)のメカニズム

 皮膚の上は、大腸や口の中と同じように数多くの常在菌が住みついている。また、傷口は細菌にとっては栄養もあり、暖かい最適な生活環境となる。そのため皮膚上に傷が出来ると皮膚常在菌はよりよい生活環境を求め創面に集まってくるのである。

 一般的には、傷が出来ると傷に細菌が侵入しないように消毒液をかけるだろう。しかし、皮膚上には細菌が無数に存在しているため一度消毒液をかけた程度では、噴きかけたその時だけは効果があるが、すぐに他の常在菌が再び傷に侵入してきてしまうのであまり効果がないのである。

 常に皮膚常在菌が傷口に侵入しているということは、「傷が出来る⇒細菌侵入⇒感染」ということになる。しかし、全ての傷が化膿してしまうわけではないのはどうしてだろうか?

 実は創感染が起こるときに細菌が存在しているということは「必要条件」であるがそれだけで創感染が起こるわけではないのである。人間には防衛機能というものがあり、もし細菌が体内に侵入しても白血球やマクロファージなどが細菌を排除し、容易に感染が起こらないようにしているのである。このため、ただ普通に細菌が傷に侵入しただけでは感染は起こらないのである。それではどんな場合に創感染は起こるのだろうか。

 細菌が感染が起こすには何らかの「感染源」が必要なのである。この感染源というのは異物壊死組織などである。なぜかというと、これらは細菌の隠れ家となり、細菌がこの中に入り込んでしまうと、サイズ的に白血球やマクロファージが入り込めず、細菌が住み着き増殖してしまう。そのため傷に感染が起こってくるのである。

   皮膚常在菌⇒白血球・マクロファージによる排除⇒感染しない

   皮膚常在菌+感染源(異物・壊死組織などの隠れ家)⇒排除×⇒創感染

 

 傷はいくら表面を消毒しても創感染を予防することはできない。創感染を予防するためには創面に存在する感染源を除去することが一番重要なことなのである。


消毒の有効性

 傷をみるとまず消毒というのが一般的に広まっている方法である。しかし実際には消毒液は傷の処置にはおすすめできない。実は消毒は創傷治癒において有効ではなく、逆に創治療を妨げる原因となってしまうのである。

 消毒というものは皮膚の細菌を殺すために行なうのだが、先ほども少し話したとおり消毒の効果というのは消毒液を噴きかけたほんの少しの時間のみであり、すぐにまた創面に細菌が消毒していない周りの皮膚や消毒が行き届かない毛穴の中などから集まってきてしまうのである。このため消毒を行う本来の目的はほとんど得られないのである。

 また、消毒液というのは細菌の蛋白質を凝固・変性させ殺菌するものである。ここで問題なのは創面に存在する皮膚細胞も、もちろん蛋白質で構成されており、消毒液は創面の人体細胞をも凝固・変性されてしまうということである。つまり消毒液は細菌だけでなく、人の細胞までも傷つけてしまうのである。また、どちらの方が消毒液に弱いかというと、なんと「人の細胞」が弱いのである。細菌は細胞膜の外側が厚い細胞壁で覆われているのだが、人の細胞は細胞壁がなく細胞膜が剥き出しの状態になっている。よって、傷を消毒すると細菌は殺しきれずに創面の人体細胞だけを傷つけてしまうということにもなりかねない。

 痛みを与え、しかも傷を治りにくくしている消毒。消毒は百害あって一利なしなのである。


これからの創傷治療

 これまで現在の創傷治療のメカニズムと現在の創傷治療の問題点を話してきた。では実際どのように治療していけばいいのだろうか。

 ここで創傷治療の大切なポイントをまとめる。

 @創面は湿潤環境を保つようにする

 A創感染防止のため感染源(異物・壊死組織)を除去する

 B消毒はしない

この3つを守ることにより今まで以上に創傷は早く治癒することを体感できるだろう


湿潤環境の保持

×ガーゼ⇒○傷を乾かさせないようなもの

 実際にどのようなものがあるかというと、一番は創傷被覆材である。これはもともと褥瘡(床擦れ)治療用に作られたものであるが、これを創傷部に使うと創面に固着することはないため痛くないし、傷を乾燥させるものではないため創面は常に湿潤環境が保たれるのである。その為従来より速く創傷を治癒させることが出来る。最近ではJ&Jより発売されている「キズパワーパット」など一般の方でも薬局などで手に入るものもある。

 またその他のものでも、傷に固着せず湿潤環境を保つことが出来るものなら代用は可能であるためぜひいろいろ試してもらい一番使いやすいものを探し出してみるのも面白いと思う。


感染源の除去

×消毒⇒○流水などによる物理的除去

 消毒による有害性というのは先ほど話したとおりである。創感染予防には細菌を殺すのではなく、細菌が繁殖する場所をなくせばいいのである。そのため一番簡単な方法は水道水などで濡らした綿花で創傷を軽く洗うことである。流水を直接当ててもいいのだが、その衝撃で余計に創面を傷つけないように気をつけてほしい。感染源となるものを洗うだけで創感染の心配はなくなる。軟膏を塗るなどのことも、ほとんど必要ないのである。


まとめ

 創傷は水道水で異物を洗って創傷被覆材などで覆う。これが新しい創傷の治療法である。このように創傷の治療には人体に備わっている自己治癒能力を最適に働かせる環境を作ってあげるということが一番大事なのである。

 今まで消毒・ガーゼという治療を何の疑いもなく行っていた。それを全て切り替えるということは気持ちの面でもなかなか取り入れにくいものである。しかし今までの治療では傷が治るのを遅らせているだけであるということをしっかりと認識し、創傷を悪化させる治療法から早く治す治療法へと、ぜひ考えを切り替えてほしいと思う。


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